日本にも日本人に有名な小説がいくつかあります。特に、「純文学」と言われる作品の中に、有名な作品が多くあります。
ただ、純文学作品で使われている言葉は、日本語として難しく、日本人にも理解できないことがあります。(それがおもしろみでもあるのですが…)
【文学紹介】のシリーズでは、日本人に有名な(だけど日本人も実は読んだことがない)小説たちを紹介していきます!
今回は、太宰 修(だざい おさむ)が書いた『人間失格』です。
(1)この小説の前提知識
(2)あらすじ
(3)最後に
(1) この小説の前提知識
この小説は太宰治という作家が最後に書き残した作品です。
太宰治はこの作品を書き上げた1ヶ月後に自殺をしています。
有名なポイントは「恥の多い生涯を送ってきました。」という一文。
物語は全て主人公(葉蔵-ようぞう)のモノローグで進みます。
3つのパートから成り立っていて、
(A) 葉蔵の小さいころ〜中学校まで
(B) 中学校〜高等学校へ
(C) 高校退学後
の流れになっています。
見どころは、葉蔵が破滅に向かって堕(お)ちていく様子です。
本人の目線から、ものすごくリアルに綴られています。
(2)あらすじ
葉蔵は小さい頃から、「他人が何を考えているのか全く理解できない」と感じていました。そのため、自分と違う人と関わることに恐怖を感じていました。
その恐怖と戦うために思いついたのが、「道化(どうか)」を演じる、というものでした。
道化とは、人を笑わせようと演じる役のことです。ピエロなんかも道化の一種ですね。
しかし、中学生の時、同級生に「道化を演じている」と言い当てられてしまいます。
そのことに不安と恐怖を覚えたことがきっかけで、以後、他人に対する不安を募らせていきます。結果、酒やタバコに溺れ、自殺をしようとするほどに、心が壊れて行きました。
大人になって、フラフラ(安定しない、ちゃんとしない様子)とした生活を続けているのですが、心を許せる人たちが徐々に出てきました。「自分を脅(おびや)かさない」人たちと接する中で、少しずつ他人に対して心を許し始めます。このとき、葉蔵は出会った女性と結婚を決意します。一緒に暮らし始めた束の間の幸せでしたが、事件が起こります。
婚約していた妻は、人を疑うことを知らず、家を訪ねてきた商人の男に暴行をされてしまいます。それによって、彼女の心は傷つき、葉蔵に対しても怯えるようになってしまいました。
そのことがショックで、葉蔵はまた酒に溺れていきます。
自殺まではかり、そしてついに麻薬に溺れるようになった葉蔵をみて、友人が彼を病院に連れていきます。葉蔵は、「療養所(りょうようじょ)」という回復治療の施設に連れていかれると思っていたのですが、行き先は「脳病院(精神がおかしくなった人が入る施設)」でした。その事実に愕然(がくぜん:とてもショックを受け、絶望すること)とした葉蔵は、「自分は人間として失格なんだ」と悟ったのでした。
(3) 最後に
葉蔵の悩みは、「他人を信頼できないこと」の一点に集約されていました。自分と違う考えの他人を受け入れることにすごく苦労したのだと思います。
葉蔵は、自分に「人間失格」の烙印(らくいん)を押しましたが、他人を信頼できず、不安に思う気持ちや、お酒や娯楽に逃げようとする気持ちは誰にでもあると思います。なぜ葉蔵だけがこうなってしまったのか、本当に彼は人間として失格なのか、考えさせられる話です。